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前回は、世代を超えるほど長い時を刻み、今なお生き続ける「骨董品としてのヴァイオリン」のことをご紹介しました。ヴァイオリンをはじめとする楽器の魅力が徐々に分かってきた頃ではないでしょうか?さて第4回目は、その楽器が持つ最上の音を維持するためのメンテナンスについてお話していきたいと思います。
楽器の個性でもある音の良し悪しは、個々の楽器のもともと持つ音色に加え、美観、背景、そして奏者の楽器に対する愛着、使用価値、利用価値なども判断要因となるのですが、基本的には人それぞれが持つ感覚的な評価によるものと言われます。つまり、良い音の絶対的な定義はなく、ある人にとって長所と思えるところも別の人には短所と感じてしまうということ。あのストラディバリウスでさえ、万人にとって最上であるとは必ずしも言えないのです。 しかし、そうした違いがあるからこそ、ヴァイオリンをはじめとする楽器たちの魅力があるのです。
1.良い音を導き出すために
前述で述べたように、音というのは誰しも絶対的な評価をできないものではありますが、それぞれの持つ音は様々なメロディーとなって、聞く人の心と耳を惹き付けます。しかし、その音色を導き出しているのは、何も弾き手の技量や努力だけではありません。実は日々のメンテナンスを心掛けることで、その楽器の持つ最上の音をしっかりと引き出し、保つことになるのです。もともとの楽器が持つ音の良し悪しではなく、その楽器自身が持つ最上の音を維持し、発揮させてあげることも魅力的な音への重要なアプローチなのです。
度々、メンテナンスを必要とする弦や弓の毛といった消耗品の定期的な交換はもちろんのこと、コマの状態を正しい形と位置で維持することはコマと良い音を長く持たせるためには欠かせないことだと言われます。こうした小さな変化をコンスタントにチェックする事が、小さいようで実は重要なポイントなのでしょう。
また、見落としがちなのが魂柱やペグ。これらは、木の乾燥や歪みによって形が変化して合わなくなったりすることがあります。合わないまま使い続けてしまうと楽器に負担がかかり、良い音が出なくなってくるのです。このような、木の不具合からメンテナンスを受ける人も多いそうです。
そもそも木を使用する楽器は、特に環境の変化に大きく左右されるものだと言います。何もしていなくても気温や湿度によって木は絶えず変化していってしまう。木を使用する楽器の、保存環境の目安としてこんな話があります。人が暑いと感じる時には楽器も暑いと感じ、寒いと感じればそのように感じているということ。暑ければ人が汗をかくように、楽器の場合は接着材であるニカワが溶け出してくるし、乾燥していれば肌がカサカサになるように、木も乾燥してひび割れる、ということが起こる。つまり人間が快適に思う環境が保存場所にはベストだと言われているのです。人のように楽器に使われる木も呼吸をし、変化していく。まるで生きているかのように。そのつもりで目を掛けて、大切にしていくことが重要なのでしょう。
2.楽器店と言う名の主治医
弾き手にとって、ヴァイオリンをはじめとする楽器は、かけがえのない相棒のようなものだと思います。弾いてる時に「あれ、いつもと何かが違うな?」と感じることがあったら、相棒の具合が良くないのかもしれません。先で述べたように、注意して自己でケアをしていたが、なんとなくいつもと違う。けれども、具体的には分からない。そんな時、頼りになるのが楽器店です。
楽器店ではその楽器の状態を見極めて、使用していく状況に合わせてメンテナンスをしてくれます。楽器の一体どこが調子の悪い部分なのかを、的確に判断してくれるのです。
また、自身では気づかずに間違ったケアをしている場合も多いのでそう言った面でも、タイミングを見たメンテナンスは必要ですね。例えば虫歯を防ぐ為に歯医者さんに行くように、半年に1度、年に1回程、定期的に見てもらうと良さそうです。そう、リアルタイムな音楽情報やアドバイスをもらいに行くついでに…、それぐらいの気軽な気持ちで。
3.涙と汗は努力の結晶、実は…
小さい頃からヴァイオリンを習っている子供も数多くいます。中には上手く弾けなくて、練習中に涙を流してしまう子もいるようです。
しかしそんな涙痕でも、本体に付いてしまうとシミになり、とれなくなってしまうのです。また、汗も同様に知らないうちにこびりついてしまうのだそう。美観だけでなく、保護のために塗られるニスは、思いのほか汗ではがれていくことが多く、持ち主が気づかないうちにダメージを受けていることも多いようです。そうしてダメージを受けたり、剥がれてしまった箇所など、あるいはニスを塗っていない木の地肌部分に汚れなどがついてしまうと、取り除けないと言います。
これらはすぐに音に影響が出るものではなく、軽視されがちかもしれませんが、長く放置すればいずれ悪影響を及ぼしかねません。こうした表面的な汚れなどもしっかりケアし、気にしてあげること、クリーニングしてあげることも長い目で見れば、大切な楽器を守ることになるのです。
4.後世に伝える使命
メンテナンスにおける様々な注意点や事例をあげてきましたが、これらはほんの一部に過ぎません。奏でられる音が十人十色であるように、その症状は楽器によってそれぞれ異なるものと言えます。
その症状を解決した楽器は、もちろん良い音を奏で、素敵な曲だと感じる音色となります。ただ、そう感じさせるのは、やはり正しいメンテナンスがあってこそ。それは、細やかな変化を見抜けるほどの、持ち主の面倒見の良さと、何より愛情があるからでしょう。それにより、楽器自身もさらに成長していき、長い間良い音を維持させることができるのではないでしょうか。
楽器は300年以上もの寿命を持つ存在。それは、世代を渡る年月と共に刻まれる歴史だけでなく、弾き手から楽器への様々な思いを繋いでいける貴重なもの。楽器に携わる全ての人は、良い状態で後世へ引き継ぐ使命を担っているとも言えるのだろうと思います。